Marmontel【24 Etudes Caraceteristiques, Op. 25】マルモンテル 24の性格的練習曲 作品25

【簡介】
 数多くの音楽家を育てたフランス人ピアノ教育者〈マルモンテル〉による24の個性的なエチュード。
アントワーヌ=フランソワ・マルモンテル(Antoine Franois Marmontel, 1816-1898)はフランスのピアニスト・教育者・著述家。
 日本でのマルモンテルの認識は優れたピアノ教授であったということにとどまっていますが、作曲家としても作品番号のないものまで含めると200曲近い作品を残しています。
マルモンテルがピアノ教授であったことから、エチュードがその作品の中核をなし、その中でも沢山のピアノ学習者に支持されたエチュード集が、この『24の性格的練習曲』(24 tudes caractristiques op.25)です。

このエチュード集が出版されたのは1849年のことで、マルモンテルがコンセルヴァトワールのピアノ教授に就任した翌年になります。
ということは、教授としての才能を世に問い、またコンセルヴァトワールの教材として採用されるべく、この曲集を意欲的に書き上げたことは明らかで、実際に教材として使用され、多くの学生がこのエチュードに取り組んでいました。
 現代の我々にとっては、その当時のフランス・ピアニズムがどうようなものであったかを知る貴重な資料であると同時に、
 当時のフランス、パリにおける音楽的な美意識=エスプリに直接触れることの出来るエチュード集でもあります。
 各曲はあくまでエチュードとしての工夫がなされ、曲の展開とともにマルモンテル独自のピアニズムが体得されるよう機能的に作曲されています。
作曲者について
 マルモンテル（Antoine-François Marmontel, 1816, Clermont-Ferrand~1898, Paris）はパリのコンセルヴァトワールのピアノ科教授として1848年〜1887年まで活躍し、その門下からはビゼー、ダンディ、フランシス・プランテ、ディエメ、ドビュッシー、アルベニス、ラヴィニャックなどを輩出しました。また、弟子である息子のアントナン（Antonin Emil Louis Corbaz Marmontel, 1850~1907）もコンセルヴァトワールの女子クラスを教え、有名な弟子にはマルグリット・ロン（Marguerite Long, 1874~1966）、マグダ・タリアフェロ（Magdalena Maria Yvonne Tagliaferro, 1893~1986）がいます。つまり親子二代に渡ってフランスのピアノ界の中心人物でした。

 彼の生地であるクレルモン＝フェランはフランス中央部に位置するピュイ＝ドゥ＝ドーム県の県庁所在地で、街の中央には1335年に完成した荘厳なカテドラルがあります。この大聖堂では一時期ラモーがオルガニストを務めていました。筆者はこの街が好きで留学中に何度か訪れたことがあります。クレルモン＝フェラン生まれの音楽家にはジョルジュ・オンスロ（André George Louis Onslow, 1784~1853）がいますが、マルモンテルは彼の勧めで1827年にパリのコンセルヴァトワールのピアノ科に入学します。ヅィメルマン（Pierre-Joseph Guillaume Zimmerman, 1785~1853）に師事し、彼の後を次いで1848年ピアノの教授に就任しました。教授の地位を巡ってはアルカン（Charles Valentin Alkan, 1813~1888）と争ったとされる逸話がありますが、そのアルカン、ヅィメルマン、ショパンなどの同時代の音楽家についてのマルモンテルによる『優れたピアニストたち（“Les Pianistes célèbres, silhouettes et médaillons”, Paris, Huegel, 1878）』は、当時を知る上での貴重な資料です。その著書によれば、コンセルヴァトワールでプルミェ・プリを取った1832年に、ヅィメルマンの紹介でショパン、リストと知己を得、また彼らの前で演奏し、これが生涯忘れえぬ出来事であったと記述しています。